不登校問題を考える 2007.11.13 (2008.1.04修正)
発達の主体としての子どもたち ― 不登校の中でも、子どもたちは成長・発達する ―
これは、立命館大学の文学部教職課程授業でした話と(10月23日)と京都教育研究集会の「人権と教育」分科会(11月11日)での報告をもとに、まとめたものです
第1章 不登校問題を理解するために
| 不登校問題とは何か | 不登校問題の背景 | 学習指導要領の変遷と不登校者数 |
| 日本の教育制度の特徴的性質 | 不登校問題解決への課題 |
第2章 不登校問題への理解と対応
| 不登校者数の推移 | 不登校問題の理解と対応の仕方 | 不登校問題にかかわる施策 |
第3章 不登校問題の現状と課題
| 不登校問題の現状と課題 | 不登校になるきっかけ・理由 | 不登校当事者の声 | 不登校の継続 |
| 不登校の当事者たちの思い | 再登校に効果のあった学校の取り組み | 不登校問題の背景のもうひとつ課題 | 不登校対策の限界 |
第4章 不登校問題解決への道
| 不登校の子や親を支える草の根の運動 | 不登校理解の多様性と実践 | 不登校支援のあり方 | 不登校問題解決への展望 |
第1章 不登校問題を理解するために
1. 不登校問題とは何か
不登校問題とは、何か。それは、学校に行っていない子どもたちが、13万人もいるということです。
日本国憲法は、すべての子どもたちに教育を受ける権利を保障しています。子どもの権利条約は、さらに、子どもの発達権を明示しています。すべての子どもたちには、教育権・発達権が保障されています。それを保障するために学校がつくられています。にもかかわらず、学校に行けない子どもたちが13万人もいるということは、子どもたちの教育権・発達権の保障にかかわる重要な問題です。そして、これは、現代日本の社会構造、教育制度が生み出した極めて深刻な教育問題なのです。
同じように、子どもたちが学校に行けないということでは、戦後初期に、「長欠不就学問題」がありました。この場合は、背景に経済的な問題があることがはっきりしていましたので、義務教育無償化や就学援助等の実現に向けた教職員や親たちの努力や取り組みによって克服されていきました。
しかし、今日の不登校問題は、教育制度そのものが生み出している問題であって質的に異なり、解決の糸口さへ見えていません。
2.不登校問題の背景
では、不登校問題はなぜ起こってきたのでしょうか。教育制度、とりわけ、教育内容を規定してきた学習指導要領とのかかわりで考えてみます。
不登校が教育問題として認識されるようになったのは、1960年代です。1966年には、文部省(当時)は、「学校嫌い」の調査を開始しています。1975年に不登校者数は1万人を超え、その後も増え続け、1997年には10万人を超えました。そして、2001年には、13万8722人を数えるに至りました。その後4年間は、少し減る傾向にありましたが、それでも、12万人超の不登校者を数えています。そして、2006年には再び増加し、中学生の35人に1人が不登校という状況になっています。
1960年代は、日本経済は、高度成長期にありました。地域共同体の崩壊、核家族化、受験競争の激化など、地域や家庭、子どもたちの生活が急激に変化し始めた時期です。そして、教育制度に目を向ければ、戦後教育は、憲法・教育基本法を基調とするものの、その実質的な内容や制度のあり方は、中央教育審議会や教育課程審議会の審議を経て学習指導要領に規定されてきました。1968年には学習指導要領の大改訂があり、それが実施された数年後には、不登校者数は1万人を超えました。
3.学習指導要領の変遷と不登校者数
学習指導要領の変遷とともに不登校者数が増加しています。
1968年の改訂は、小学校でのかけ算の九九の学習を小学校3年生から2年生に変更し、漢字学習の配当を大幅に増やすなど、学習内容のレベルアップを図りました。この改訂は、「落ちこぼれ」問題の引き金となりました。1977年の改訂では、「ゆとりと充実」を謳い文句に、学習内容の「精選」と授業時数の削減の方向に踏み出しました。これによって、子どもたちの負担は、さらに増えていきました。1989年の改訂では、小学校低学年で、理科と社会科の廃止と引き換えに生活科が設置され、また、社会の変化に自ら対応できる能力として「新しい学力観」が提唱されました。教育における新自由主義の現われです。教育現場では、「その子なりに」という言葉が横行し、”できる子はできる子なりに””できない子はできない子なりに”という能力主義が持ち込まれました。
さらに、1998年の改訂は、「ゆとり教育」を推奨するものでした。「生きる力」が提唱され、「総合的な学習の時間」が設置され、他の教科の学習時間は大幅に削減され、学習内容も3割削減されました。その一方で、「教育改革」「規制緩和」と称して、中高一貫校やスーパーサイエンススクール、株式会社学校の登場など、教育における競争と格差を助長する教育政策が実施されました。この改訂は「低学力・学力不安」をもたらしました。
学習指導要領の改訂のたびに、子どもの負担は増加されてきました。一方、1989年の改訂では、「自治的な活動」が学習指導要領から削除され、子どもたちへの管理的な指導が強まるとともに、「日の丸」・「君が代」の押し付けや「心のノート」など道徳教育を通した内心への統制も強められてきました。
不登校(学校嫌い)調査が始まって以降に学習指導要領は、4度改訂されています。その度に、不登校者数は、増加を繰り返しました。学習指導要領の改訂とともに不登校問題は深刻化してきました。いえ、不登校問題など、子どもたちの状況を顧みないで学習指導要領は改訂され続けてきたといえます。
4.日本の教育制度の特徴的性質
学習指導要領には、政府・文科省(文部省)の教育に対する考え方が色濃く反映されています。そして、教育内容においてそれを具体化していくものが学習指導要領です。
日本の教育制度・学習指導要領について、教育課程審議会の会長を務めた三浦朱門氏と、国連子どもの権利委員会がその本質・特徴を端的に指摘しています。
三浦朱門氏は、1998年の学習指導要領改訂の後、インタビューを受けて、「できん者は、できんままでけっこう。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることばかりに注いできた労力を、これからは、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。100人に1人でいい、やがて、彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえればいいんです。」と発言しています。そして、さらに、「国際比較をすれば、アメリカやヨーロッパの点数は低いけれど、すごいリーダーも出てくる。日本もそういう先進国になっていかなければなりません。それが、”ゆとり教育”の本当の目的。エリート教育とはいいにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ。」と、「ゆとり教育」の正体を自ら曝け出しています。
時を同じくして、国連子どもの権利委員会は、子どもの権利条約に関する日本政府の報告書に対して、日本の子どもたちが「高度に競争的な教育制度によるストレスにさらされ、かつ、その結果として余暇、身体的活動および休息を欠くにいたっており、子どもが発達のゆがみ(developmental disorder)をきたしていることを懸念する。本委員会は、さらに、学校嫌い(school phobia)の数が看過できない数に上っていることを懸念する。」と、教育制度のあり方に懸念を表明しています。
このような教育制度の下で、不登校問題は、ますます深刻さを呈してきたのです。そして、今、教育制度は、改訂教育基本法の実施と合わせて、さらに管理・統制・競争を強めようとしています。
5.不登校問題解決への課題
不登校問題に関しては、これまで、不登校の子どもにどのように対応するか、どのような支援が必要かに視点を当てて論じられてきた傾向があります。もちろん、そのことは、不登校に直面している子どもや親にとっては切実な課題であり、要求でもあります。しかし、不登校問題を根底から解決していくためには、その根源となっている教育制度を変革し、すべての子どもがいそいそと通える学校を実現することが必要です。そして、それは、教育を一握りのエリート育成の手段としてではなく、すべての子どもの教育権・発達権を保障するための極めて民主主義的な課題なのです。
第2章 不登校問題への理解と対応
― 文部科学省の統計資料の分析から ―
1.不登校者数の推移
不登校の子どもたちが、1万人を超えたのは、1975年のことでした。その後も不登校者数は増え続け、1988年には4万人を超え、1997年には10万人を超えました。そして、2001年には、統計上、最高値の13万8722人を数え出現率となりました。その後4年間は微減しましたが、ちなみに、2006年度には、高校生の不登校者数も約7万人を数えており、小・中・高校生に不登校者数の合計は、なんと、20万人を数えることになります。
2.不登校問題の理解と対応の仕方
不登校問題が社会問題化しはじめて後、文部科学省(文部省)は、1992年に「学校不適応対策調査研究協力者会議」、2002年には「不登校問題に関する調査研究協力者会議」を設置しています。それぞれ、調査、研究を重ね、「登校拒否(不登校)問題について」(1992年)、「今後の不登校への対応について」(2003年)という報告をまとめています。
1992年の報告は、不登校は特定の子どもや特定の課題をもった子どもがなっているのではなく、今日の社会や教育の状況の中では、「誰もが不登校になる可能性」があると指摘しました。これは不登校理解の上では重要なことでした。
それまで、不登校は個人的な問題として、本人の性格、親の育て方、親子関係の問題としてとらえられる傾向が強く、子どもを無理矢理学校へ行かせる、来させる等の強引な指導が行われ、結果として、子どもや親をを精神的に追い詰めていきました。1992年報告の後、登校刺激を避ける傾向が強まり、「見守る」とか「待つ」という言葉に代表されるような指導が主流となりました。また、不登校への理解も徐々に広がっていきました。
しかし、不登校者の数は減ることなく増加を続け、2001年には、統計上、最高の不登校者数を記録しました。こうした状況の中、2003年報告は、「誰もが不登校になる可能性」という基本的な理解は維持しましたが、「過剰な登校刺激」やその対極にあった「待つ指導」に注意を喚起しつつ、学校復帰や再登校に効果のあった指導を集約し「事例集」としてまとめ、積極的な指導を提起しました。不登校者数を減らすために「不登校ゼロ宣言」をする自治体や学校、「不登校半減計画」を作成し実施する自治体や学校が続出しました。また、不登校の子どもの家庭を訪問し登校を促すという指導も横行しました。
この一方で、2003年報告は、1998年改訂の学習指導要領の打ち出した「ゆとり教育」の実施によって不登校問題は解決できるという展望を示していました。報告と前後した4年間は、確かに、不登校者数は微減しました。しかし、問題解決には程遠いものでした。
3.不登校問題にかかわる施策
文部科学省は、不登校問題にかかわるさまざまな施策を講じてきました。1975年にはカウンセリング技術指導講座を実施し、1984年からは教育相談活動推進事業を実施しています。1990年には適応指導教室事業を始め、1995年にはスクールカウンセラーの配置を始めました。さらに、2003年からは、学校、家庭、関係団体が連携した効果的なネットワーク作りを目的としたスクーリング・サポート・ネットワーク整備事業を各都道府県で実施し、また、NPO等の活用に関する実践研究事業として、NPOや民間施設、公的施設15団体に、不登校の子どもたちへの支援を委託する事業を始めています。
2005年には、適応指導教室は、都道府県で31箇所、市町村では1139箇所設置されています。スクールカウンセラーは、全公立中学校の約97%に当る9694校に配置されています。
学校基本調査によると、2006年度に適応指導教室で相談、指導、治療を受けた小学生は3009人、中学生は1万2790人、計1万5799人です。また、スクールカウンセラーに相談、指導を受けた小学生は6869人、中学生は3万9385人、計4万6254人です。適応指導教室には12.5%、スクールカウンセラーには36.5%の不登校の子どもたちが相談、指導を受けています。
このように、スクールカウンセラーの配置や適応指導教室の設置は整えられ、多くの子どもたちがそれらを利用していることがわかりますが、スクールカウンセラーの利用は3人に1人の割合、適応指導教室は10人に1人程度に過ぎません。
また、学校や公的機関以外の民間団体や民間施設で相談、指導、治療を受けた小学生は695人、中学生は1803人、計2498人、約2%、50人に1人の割合です。
適応指導教室は整備されてきたとはいえ、未設置の自治体が多くあります。スクールカウンセラーは、ほぼ100%配置されているといっても、常勤ではなく、週1日程度の配置ですから、利用するにも制約があります。民間団体や施設の多くは、善意による活動で、その多くが施設の活動を維持することさえ困難な状況にあるといえます。身近な相談機関やカウンセラーの増員が求められます。また、不登校の子どもたちの多様な学びや活動の場が保障されるような施策が望まれます。
第3章 不登校問題の現状と課題(2007年度学校基本調査の速報値から)
8月に、2007年度学校基本調査の速報値が発表されました。不登校者数は、12万6764人を数え、4年間の微減傾向に終止符を打ち、増加に転じました。小学生は302人に1人、中学生は35人に1人の割合で不登校になっています。
新聞報道は、不登校者数の増加のみを伝えましたが、速報値は、不登校問題についてさまざまな傾向を示しています。以下、速報値を概観していきます。
子どもたちは、どのようなことをきっかけに不登校になるのでしょうか。調査は、大きく@本人の問題、A家庭生活、B学校生活の3つに区分しています。小学生では、「本人の問題」が34.6%を占め第1位です。第2位は「家庭生活」で27.3%、第3位が「学校生活」の21.2%です。これに対し、中学生では、「学校生活」が39%で第1位です。そして、第2位が「本人の問題」(37%)、第3位が「家庭生活」(16.2%)です。
(1)学校生活をきっかけとする場合
不登校のきっかけが学校生活にあるとする場合、その主な内容は、小・中学生ともに「友人関係」が最も多く60%近くを占めています。それに続くのは、「学業不振」で約20%です。中学生では、第3位に「学校のきまり」が6.4%で続きます。小学生も中学生も、「教師との関係」で不登校となったのはわずか4%に過ぎません。
(2)家庭生活をきっかけとする場合
家庭生活が不登校のきっかけとなる場合は、小・中学生ともに「親子関係」をめぐる問題が50%前後を占めています。第2位は「家庭の生活の急激な変化」で約30%です。「家庭内の不和」は約20%です。
(3)本人の問題をきっかけとする場合
「学校生活」、「家庭生活」、「本人の問題」の3区分の中で、不登校のきっかけとして第1位を占めているのは「本人の問題」(34.6%)です。しかし、その内容を見ると、「病気による欠席」が約20%なのですが、80%については「その他本人にかかわる問題」となっていて詳細がわかりません。
(4)若干の考察
きっかけは、あくまで、きっかけです。このことが原因で不登校になったわけではありません。文部科学省が言っているように、今日、誰が不登校になってもおかしくない状況があります。さまざまな不安やストレスを抱えて、子どもたちは日々を過ごしているといえます。そして、我慢したり、努力をしたりしながら、子どもたちは学校に通っているのでしょう。それが、何かをきっかけに、学校に行けなくなるのです。
学校基本調査では、上記のような調査結果が出ましたが、私のかかわってきた子どもたちの状況とは大きな隔たりがあるように思えます。なぜなら、私の関わってきた子どもたちの多くは、先生の指導や言葉などをきっかけに学校に行けなくなった子が多くいますし、また、いじめを機に不登校になった子も多くいます。これらは、いずれも学校生活にかかわる事柄です。
学校基本調査は、学校が調査項目に答えています。ですから、先生たちの不登校のとらえ方が反映しているのかもしれません。不登校の子どもたちには、なぜ、自分が不登校になったのかと答えられる子はそう多くはいません。幸い、文部科学省が不登校経験者の追跡調査をした報告がありますので、次にそれを見てみたいと思います。
2.不登校当事者の声 ・・・「不登校に関する実態調査」(文部科学省、2005年)から
文部科学省が、2005年にまとめ、発表した「不登校に関する実態調査」があります。この調査は、1993年度の不登校生徒で中学校を卒業した者を対象として、不登校当時の状況や進路状況等について追跡調査を行ったものです。
この調査によると、不登校になったきっかけは、「友人関係をめぐる問題」(45%)が第1位です。第2位は「学業不振」です。そして、「教師との関係をめぐる問題」は21%で第3位でした。そして、この上位3位で、なんと、不登校のきっかけの実に95%を占めているのです。不登校当事者が答えた不登校のきっかけは「学校生活」に起因することがほとんどでした。
ところが、学校基本調査を見ると、不登校のきっかけは、第1位「本人の問題」36.9%、第2位「学校生活」35.2%、第3位「家庭生活」18.3%でした。ちなみに、学校基本調査における「友人関係」、「学業不振」、「教師との関係」を全体との比率に換算してみると、「友人関係」は20%、「学業不振」は7%、「教師との関係」はわずか1.4%でした。
学校基本調査と不登校経験者への実態調査との間には、大きなギャップが存在します。この違いは、学校(教師)の不登校理解と不登校当事者の思いとの大きな隔たりを表しているように思えます。そして、その隔たりは、不登校の子どもたちの気持ちの理解や支援のあり方にも大きな影を落としているように思えてなりません。
3.不登校の継続
いったん不登校になると、不登校の状態が長期にわたって続く場合があります。小学生の場合は、学年が上がるにしたがって、その割合が大きくなり、6割前後の子どもたちは、不登校が長期化しています。また、小学6年生の場合、96%の子どもたちが中学校に入学しても不登校状態が続いています。中学生になると、いったん不登校になると、その長期化する割合は、小学生の時期よりも、さらに大きくなっています。
不登校の状態が続く理由の第1は、「不安などの情緒的な混乱」です。小学生で32.6%、中学生でも30.1%を占めています。それに続くのが「無気力」で、小中学生ともに約20%を占めています。中学生では、その後に「遊び・非行」が9.6%で続きます。
ここでも気をつけなければならないことはということです。この調査は、学校(教師)の視点で捉えたものであるということです。学校(教師)の視点から見た場合、不登校の子どもたちは「不安などの情緒的混乱」や「無気力」の状態にあるように見えるのでしょう。しかし、それは、また、不登校状態が長期にわたって続く場合の子どもたちのおかれている状況を反映しているのかもしれません。
不登校に関して、精神的な理由や無気力だから不登校になるととらえる傾向が往々にしてありますが、そうではなく、むしろ、不登校の状態にある子どもたちへの理解の仕方やかかわり方等が、子どもたちを精神的に追い詰めていっているのではないかということがこの調査結果から読み取ることができます。
4.不登校の当事者たちの思い
では、不登校の当事者たちは、どのような思いで不登校の時期を過していたのでしょうか。
「不登校に関する実態調査」によれば、不登校状態が継続する理由で最も多いのは「学校生活の問題」です。また、学校を休んでいた時の気持ちとしては、「自分自身は不登校を悪いこととは思わないが他人の見方が気になった」が39%で最も多く、「学校に行きたかったが行けなかった」が29%でつづきます。自らの不登校については、「不登校を悪いこととは思わない」「何ら心理的負担がなかった」が67%もあります。不登校の当事者たちは、不登校をそのまま受け入れていたことがわかります。むしろ周りの受け止め方が不登校を問題視していたことがわかります。そのことは、不登校を振り返った時、「仕方がなかった」「むしろよかった」と思っている者が59%を占めていることからもわかります。
ここに、不登校を理解するための大きなヒントがあるように思われます。そして、また、不登校の子どもたちにどのようにかかわり、どのような支援が必要なのかも導き出せるような気がします。子どもたちは、不登校を当然のこととして受け入れているのであって、周りの人達や教師が不登校を深刻な問題であるかのように受け止め、対応していることが、むしろ問題なのかもしれません。
5.再登校に効果のあった学校の取り組み
子どもたちが不登校になった場合でも、4割近くの子どもたちは、再び学校に通うようになっています。学校基本調査によると、指導の結果、再び登校できるようになった小学生は7375人います。また、中学生も2万9441人が再び登校しています。合わせて3万6816人です。これは、小学生の31%、中学生の28.6%、全不登校者数の29%に当ります。
では、どのような取り組みが子どもたちが再び学校に通えるようになるために効果的だったのでしょうか。学校基本調査は、取り組みを@学校内での指導の改善工夫 A家庭への働きかけ B他機関との連携 の3つに区分しています。効果のあった取り組みの割合は、「学校内での指導の改善工夫」が61.3%、「家庭への働きかけ」が29.4%、そして、「他機関との連携」が8.4%となっています。学校内での取り組みが大きな割合を占めています。
ちなみに、取り組みの中で最も効果的だったのは、「家庭への働きかけ」のうちの「登校を促すため、電話をかけたり迎えに行くなどした」、「家庭訪問を行い、学業や生活面での相談に乗るなどさまざまな指導・援助を行った」がともに11%でした。
効果的のあった取り組みをm、割合の大きなものから順に並べてみます。(割合は最も高いものが9.1%、最も低いものが2.8%ですから、さほど大きな差はないと考えられます。)
小学校では、@不登校問題について研修会や事例研究会を通じて全教職員の共通理解を図った。 A教師との触れ合いを多くするなど教師との関係を改善した。 B様々な活動の場面において本人が意欲を持って活動できる場を用意した。 C保健室等特別な場所に登校させて指導に当った。 D全ての教師が該当児童に触れ合いを多くするなどして学校全体で指導に当った。 E友人関係を改善するための指導を行った。 Fスクールカウンセラー等が専門的に指導に当った。 G養護教諭等が専門的に指導に当った。 H授業方法の改善、個別の指導など授業がわかるようにする工夫を行った。 I教育相談担当の教師が専門的に指導に当った、となっています。
中学校では、順序が入れ替わります。@スクールカウンセラー等が専門的に指導に当った。 A保健室等特別な場所に登校させて指導に当った。B研修会や事例研究会を通じて全教職員の共通理解を図った。 C教師との触れ合いを多くするなど教師との関係を改善した。 D友人関係を改善するための指導を行った。 E全ての教師が該当児童に触れ合いを多くするなどして学校全体で指導に当った。 F養護教諭等が専門的に指導に当った。 G様々な活動の場面において本人が意欲を持って活動できる場を用意した。 H教育相談担当の教師が専門的に指導に当った、となっています。 I授業方法の改善、個別の指導など授業がわかるようにする工夫を行った、となっています。
小学校と中学校との違いは、小学生と中学生の発達段階の違いを反映していると思われます。
6.不登校問題の背景のもうひとつの課題
効果的だった取り組みの内容を見て、何か気付くことはありませんか。「子どもの共通理解」・「教師との触れ合い」・「友人関係づくり」・「活躍できる場」・「わかる授業の工夫」等、ここに列挙されて取り組みは、学校であれば当然過ぎる取り組みばかりではないでしょうか。保健室等の別室登校以外、何も特別な取り組みが行われたわけではありません。このような取り組みが功を奏して不登校者の3人に1人が再び学校に通えるようになっています。
もし、このような取り組みが日常的に行われていたならば、3人に1人は、いや、それ以上の子どもたちが不登校にならなかったのかもしれません。先生たちが、通常の勤務時間を越えて夜遅くまで働きながらも、子どもと触れ合えない、教材研究や授業準備の時間がないほどの状況におかれていることが指摘されています。また、精神的疾患で休職する先生の数も増え社会問題化しています。さらに先生たちへの管理・統制の強化など、先生たちを取り巻く環境は劣悪な状況にあるといいます。
先に指摘した教育制度や教育課程の問題に加え、先生たちの働く環境も、不登校問題を深刻化させる大きな要因といえるかもしれません。
7.これまでの不登校対策の限界
不登校問題の背景には、現代日本の社会構造や教育制度のあり方、学習指導要領の問題、さらには、教職員への管理統制の強化、多忙化などの問題があると考えられます。そうした状況の下で、いつ、誰が、不登校になってもおかしくなく、そして、何かのきっかけで学校に行けなくなってしまう状況に、子どもたちは置かれているのです。このような状況の改善・改革は、単に不登校問題解決のためばかりでなく、多くの子どもたちの教育権・発達権を保障するためにも必要なことだと考えます。
しかし、不登校問題へのこれまでの取り組みは、教育相談や適応指導教室、関係機関との連携といった対症療法的な対応に終始してきました。不登校問題を生み出している根本的な構造的課題に目を向け改善・改革することなく、むしろ、構造はそのままにして、不登校の子どもたちへの特別な支援が行われてきました。これは、とりもなおさず、不登校を個人的な課題とする見方、考え方を助長してきたといえます。
もう少し子どもたちの心に寄り添った取り組みが日常的に行われていたならば、不登校にならずにすんだ子どもたちも多くいるのではないでしょうか。対症療法は、今日の学校が失った機能を補うものであって、不登校問題を解決するための方法ではありません。ここに、これまでの不登校対策の限界があります。
今日、「教育改革」「教育再生」という名目で、不登校問題の背景となっている競争と選別の教育政策は、より強力に推し進められています。不登校問題を引き起こしている構造や制度はそのままにし、いや、むしろ強化しながら、不登校への対症療法的な対応は、不登校問題を教育的課題から切り離し、特別な問題、個人的な課題に矮小化することにほかなりません。
ちなみに、京都府では、不登校支援加配が2007年度から配置されました。加配の配置されているある中学校を訪れる機会がありました。その中学校では、不登校の子ども達への対応は不登校支援加配が行い、担任かかわりはほとんどといっていいほどありませんでした。担任の負担が軽くなったわけですが、同時に、不登校の子どもと担任やクラスメートとのかかわりが薄くなっています。不登校の子ども達は、学級の中にますます位置づけられなくなり、学校の中の居場所は校舎の片隅に追いやられている感がしました。
第4章 不登校問題解決への道
1.不登校の子や親を支える草の根の運動
これまでは、学校基本調査をもとに、不登校問題の現状や課題、取り組みについて見てきました。それらは、もっぱら学校や公的機関によるものでした。しかし、不登校問題に対しては、学校や公的機関以外にも幾多の取り組みが為されていて、学校復帰を目指す学校や公的機関の取り組みとは異なる不登校の子ども達への理解や支援を行い、、多くの経験や教訓を生んでいます。
学校基本調査によれば、民間の施設を利用したり支援を受けたりした子どもたちは数%に過ぎず、学校や公的機関を利用する場合がほとんどです。それは、不登校の情報を学校が集約し、管理しているからに外ありません。また、不登校の相談・カウンセリングや支援についても学校からもたらされる情報は、公的な機関のものばかりで、民間の情報はほとんどありません。親は、学校からの情報しか知らされていない場合が多く、同じ学校に子どもが在籍していて、不登校になっている場合も、親同士お互いに知らない状況におかれている場合が多いようです。ですから、自分の子どもだけが不登校だと思い、孤立している親も少なくありません。
不登校の子どもを持つ親たちは、親同士のつながり合いを求め「親の会」をつくり、また、「居場所」作りをすすめてきました。そして、全国各地に「親の会」ができ、全国的なネットワークも作られるようになりました。
2.不登校理解の多様性と実践
不登校への理解の仕方は、多様です。今日、多くの人たちが、不登校について語っています。新聞紙上でも目にとまりますし、書店にも、多くの不登校に関する本が並んでいます。インターネットで「不登校」を検索すれば何百万というサイトが検出されます。どのような理解の仕方があるかみてみましょう。
内閣の諮問機関である「教育再生会議」の委員を務めている陰山氏は、不登校の原因を生活習慣の崩れに求めています。また、同会議の委員であった義家氏(参議院議員)は、「理由もわからぬまま、その後の人生に大きな影響を及ぼすであろう不登校という選択を安易に受容する」親の責任を指摘しています。また、ある心療内科の先生は、「不登校や引きこもりの多くは、育てられ方に問題があって引き起こされる適応障害」というとらえ方をしています。また、ある不登校支援グループは、子どもが不登校になる要因について、「我慢のできない子が多すぎるのです。嫌なことがあるとすぐ逃げる、すぐ諦める、言い訳をする、人のせいにする。そして、簡単に学校を休んでしまうのです。」と述べています。
不登校を子どもの性格や親の育て方の問題とするこのような理解の仕方は、特別なものではなく、学校でも、地域社会でも、また、不登校支援を取り組みをしている人たちの中にも多く見られます。「育ち直し」や「育て直し」を視点とした生活改善や精神修養などの取り組みや「学校復帰」をめざす取り組みが生まれる土台がここにあります。
一方、長年、不登校の子ども達にかかわってきたある研究者は、「不登校は、子どもの心がもつれた状態です。原因は単純ではありません。学校に行けなくなった本来のもつれと、周囲の偏見によるもつれが二重になっています。無理に引っ張るとよけいにほどけにくくなります。原因がなんであれ、もつれをほどくのは、理解者に支えられた本人です。」また、ある臨床心理学者は「『不登校』が抱える課題は、臨床心理学の総力を上げて立ち向かっても超えられないほど深刻な事態に陥っていると言える。しかし、その中にあって、ささやかながら実践や研究を通して、明らかになってきたメカニズムや効果を上げている援助も多くある。』と、不登校問題の課題の深刻さを指摘しながらも、不登校を乗り越えていく子どもたち自身の可能性や実践的な展望を示しています。
また、各地で展開されている「居場所」作りやフリースクールの取り組みは、不登校の子どもたちの成長を支援する場となっています。さらには、不登校を積極的に評価し、オルタナティブスクールやホームエデュケーションの考えを実践している人たちもいます。
3.不登校支援のあり方
不登校への理解は多様です。そして、不登校支援のあり方も多様です。しかし、だからといって、何でもありきではいけません。不登校を子どもや親のせいにしたり、子どものため、将来のためだといたりして、子どもの気持ちを顧みず、子どもや親を精神的に追い詰めていった悲しい教訓は生かされなければなりません。大切なのは、「はじめに子どもありき」です。その子どもがどのような状況にあり、どのような課題をもち、どのような願いを持っているのか、子ども理解から支援のあり方は生まれてきます。ですから、不登校支援のあり方は、子どもの数だけあるといえます。
学校を拒否する子どももいます。学校へ行きたいと願っている子どももいます。勉強の好きな子もいますし、きらいな子もいます。友達を求める子がいて、拒絶する子がいます。いじめにあった子はとても傷ついています。いえ、不登校になった子どもたちの多くは傷ついている場合が多いといえます。その子、その子の状況に合わせて、支援の方法を考える事が大事だと思います。
子どもは、不登校の中でも、成長をしつづけます。不登校の状態の中で自分を見つめ、将来を見つめ、自らを育てています。そうした子どもたちの成長を支援することが、不登校支援の中心的な課題ではなかと考えます。
4.不登校問題解決への展望
これまで文部科学省をはじめとする教育行政や学校が行ってきた不登校問題に対する施策は、不登校問題を生み出している教育制度、教育政策には目を向けず、あくまでも、個人的な問題として対症療法的に行われてきました。いわば、不登校問題を生み出す教育制度、教育政策をより強力に推進しながら、そこから生じた綻びを繕っているかのようです。
それらの施策では、不登校問題を根本的に解決できないことは、もはや、明白です。そして、学校復帰を基調とする対症療法的な取り組みは、結果的には、不登校問題の理解を妨げ、不登校の子どもたちの学びや活動の場を狭めてきました。
「不登校に関する実態調査」によれば、不登校だった子どもたちは、不登校を否定的にはとらえていません。不登校になったことについて「仕方がなかった」(31%)、「むしろよかった」(28%)というとらえている方が多いのです。また、不登校が及ぼす影響についても、「マイナスではない」(39%)、「どちらでもない」35%というとらえ方が、「マイナス」(24%)というとらえ方よりも断然多いのが特徴的です。不登校の当事者は、不登校を肯定的にとらえていることがわかります。不登校の中にあっても、子どもたちは成長・発達していきます。
いえ、成長・発達することは、子どもたちの根本的な欲求であり、要求なのです。そのような子どもたちの成長・発達を支援する取り組みは居場所作りやフリースクール等として実践されてきています。また、不登校の子を持つ親達も「親の会」をつくり、学びあい、励ましあいながら、子どもたちの成長を支える取り組みが全国各地で展開されています。
今日の矛盾に満ちた状況の下でも、不登校の子どもたちの多くは、学校へ行くことができなくても、自分の進路を切り開いていっています。子どもたち自身の中に、発達の可能性があり、進路を切り開いていくエネルギーが満ち溢れているのです。
学校は、子どもたちの成長・発達を支援するための場です。しかし、現実的には競争と選別の教育政策が展開され、学校教育は子どもを管理統制する性格を強めてきました。不登校問題は、そうした教育制度、教育政策に対する、子ども達の叫びであり、警鐘なのです。
不登校問題を根本的に解決するためには、すべての子どもたちの教育権・発達権を保障することのできる教育の民主主義的な変革が必要です。今こそ、より広く、親と学校(教師)、そして地域社会が、子どもたちへの支援の取り組みを共同して行っていくことが求められています。不登校支援の取り組みと教育の変革の取り組みを有機的に結合して取り組みことが不登校問題の根本的な解決への道ではないでしょうか。