義務教育と卒業認定

2007.4.23



義務教育学校における卒業認定について、学校教育法施行規則で、次のようになっています。
第27条 「小学校(中学校)において、各学年の課程の修了または卒業を認めるに当っては、児童(生徒)の平素の成績を評価して、これを定めなければならない。」
第28条 「校長は、小学校(中学校)の全課程を修了したと認めた者には、卒業証書を授与しなければならない。」

ですから、卒業認定は校長の権限に属するものと言えます。
これまで、不登校を理由として卒業を認めなかった事例としては、2003年に埼玉県川口市の公立小学校の事例があります。毎日新聞によると、概要は次のようです。

"埼玉県川口市の公立小学校で、不登校の6年生児童2人について、「小学校終了の力があるかどうかわ
からないのに、中学校に丸投げするのは無責任と問題提起したい」として卒業を留保。校長室などで6
日間の補習を受けさせたうえ、31日になってやっと卒業証書を渡しました。2人の児童はいずれも転
校生で、1人は学年はじめに転校して以降出席は24日、もう1人は2学期に転校し、欠席が53日。
校長は、学年末の職員会議で、「責任を持って卒業させられない」と、この2人の卒業認定を留保。25
日から30日まで補習し、結果をみて卒業を認めるかどうか判断したいと提案し保護者の了解も得たう
えで、24日の卒業式では同級生と一緒の卒業を認めず、春休みに6日間の補習を受けさせ、テストで
まずまずの成績だったため31日に卒業を認めました。"
この校長は同紙の取材に対して、「小学校終了の力があるかどうか分からないのに、中学校に丸投げす
るのは無責任と問題提起したい。できれば一緒に卒業させたかったが、補習に来なければ卒業させない選択肢もあった。」と話していました。

 こうした例は、極めてまれなことです。不登校の子どもたちの多くは、小学校でも中学校でも、卒業が認定されています。(しかし、今年は東京都などで卒業認定をしない動きがありました。)

 しかし、卒業認定は、校長の権限だとしても、「児童(生徒)の平素の成績を評価して、これを定めなければならない。」という認定判断の基準があります。
T.Aさんの場合、校長先生が「中学校を卒業させることが出来ない」と言う主な理由は「義務教育の放棄」ということのようですから、それによって卒業を認めないことは正当性を欠いているように思えます。
「無理に学校に行かせようとは思わない」という言葉を、校長先生が「義務教育の放棄」だと判断されたのであれば、これは、学校教育法第91条の「保護者の就学義務不履行」に当ることですので、校長先生には、「速やかに、その旨を当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に通知しなければならない」という義務が生じます。(学校教育法施行規則第20条) これを受けて、教育委員会は、保護者が就学義務を怠っていると認められるとき、「その保護者に対して、当該学齢児童又は当該学齢生徒の出席を督促しなければ」なりません。(学校教育法施行規則第21条)
これは、児童の就学について義務を負う保護者に対する規定で、不登校や卒業認定とは全く関係ありません。

不登校と卒業認定について考える場合には、2003年4月の文部科学省・「不登校問題に関する調査協力者会議」による「今後の不登校への対応の在り方について(報告)」が参考になります。そこには次のように書かれています。

「今日、多くの場合、欠席日数が著しく長期にわたったとしても、不登校児童生徒の進級や卒業の認定については弾力的に取り扱われているが、保護者等から学習の遅れに対する不安により、進級時の補充指導や原級留置に関する要望がある場合には、その意向を踏まえて、補充指導の実施に関して柔軟に対応するとともに、校長の責任において原級留置の措置をとるなど、適切な対応をとることが考えられる。また、欠席日数が著しく長期にわたる不登校児童生徒の進級や卒業に当っては、こうした点について予め保護者等の意向を聞いて参考とするなどの配慮が望まれる。」

"進級や卒業の認定に当っては、保護者の考えをよく聞いて配慮ある対応をする"これが、文部科学省の姿勢です。また、進級や卒業に際して、学習の遅れなどの不安を本人や保護者が持っている場合には、十分な配慮が必要で、補充学習などに取り組みましょう、という姿勢です。
私の経験から考えてみますと、病気による入院や療養によって長期欠席した子どもが、本人と家族の希望によって、もう1年同じ学年で学習したこと(原級留置)があります。あくまでも本人と保護者の希望でした。学校はその希望を尊重したまでです。

それよりも、文部科学省は「予め保護者等の意向を聞いて参考にするなどの配慮をすることが望まれる」と言っていますが、むしろ保護者や本人に相談することなく、卒業が認定されていることのほうが多いような気がします。"中学校の時期に不登校だったから、もう一度、中学校の勉強をやり直したい"と夜間中学校に入学を希望したけれども、"中学校卒業"が認定されていたために、夜間中学校へ入学することができなかったという事例もあるそうです。また、学習も進路の保証も無いまま、ただ、卒業証書だけが渡された(卒業した)という事実だけが残って、不登校の状態が卒業後も続くけれども、学校や先生との関係は、断ち切れてしまったという場合もあります。
卒業や進級時だけでなく、学校に行けていない子どもへの日常的な取り組み(学習権・発達権の保障)こそが大事であって、それが出来ていれば、卒業認定時に慌てふためく必要はないのです。子どもを真ん中にした、日常的な保護者との連携が大事だということです。

校長先生の言葉に大変不安な気持ちになられたと思います。しかし、校長先生の姿勢は、正当性がないばかりか、極めて非教育的なものといえるでしょう。しかし、校長の権限は、学校の中では大きなものです。保護者一人で対応するのは並大抵のことではありません。もし、不安がこれからも続くようであれば、各都道府県の弁護士会に「子どもの権利委員会」がありますので、相談されてみてはいかがでしょう。きっと力になってもらえると思います。また、日本弁護士連合会(日弁連)にも「子どもの権利委員会」がありますので、相談にのってもらえます。