少年法「改正」法案の問題点/学校と警察の連携による監視
     黒岩哲彦弁護士
         <日弁連子どもの権利委員会委員長・教育研究集会「子どもの人権と学校・地域・家庭」分科会共同研究者>


 学校の中でも、地域でも子ども達への管理主義が強まっています。この動きは、根っこは同じだと思います。
 
 学校の中では―「寛容ゼロ」の懲戒処分・出席停止

 2006年5月に、おそるべき報告書が、文部科学省と国立教育政策研究所から発表されました。題して、「『生徒指導体制の在り方についての調査研究』報告書―規範意識の醸成を目指して」というものです。この報告書は、国立教育政策研究所のホームページでみることができます。
 この報告書は、アメリカの学校で、今行われている「ゼロトレランス(Zero Tolerance)」という『小さな問題行動に対して学校が指導基準にしたがって毅然とした態度で対応」する「指導方式」と、「寛容ゼロ」をより細かく実践する「段階的指導(プログレッシブディシプリン=progressive discipline)」という「小さな問題行動から曖昧にすることなく注意するなど、段階的に指導する方式」を賛美しています。このアメリカの「ゼロトレランス」を肯定する加藤十八氏(中京大学名誉教授)の『アメリカの事例から学ぶ学校再生のきめて ゼロトレランスが学校を建て直した』(学事出版)によると、アメリカでは、校則が「生徒ハンドブック」として生徒・親に渡されるが、高校でA4版50ページ、中学校で40ページ、小学校で10ページ程度のものが普通ということです。
 報告書はまた、義務教育段階の子どもには、「出席停止制度」を活用しろともいっています。子どもを校則と懲戒処分・出席停止で縛り上げようとということです。教育基本法改正案(与党案)6条2項が「教育を受ける者が、学校生活を営む上での必要な規律を重んじる」解いていることの重大さと恐ろしさを感じます。

 学校の外では―警察による監視
 (1)奈良県補導条例の場合―無限定な「不良行為」と警察の幅広い権限

 奈良県では補導条例が2006年7月1日から施行されました。「不良行為」の子どもを対象にするといっています。条例は26の「不良行為」を書いていますが、この26の行為は、20歳未満の子どもは、喫煙、飲酒、家出など12の行為、19歳未満の子どもは、サッカーくじの購入、18歳未満の少年は、無断外泊、深夜はいかい、小中学生の怠学など13の行為をいうとしています。学校を欠席や早退、遅刻をしても「不良行為」というのですから警察の監視には歯止めがありません。そして、警察官は、注意・助言・指導・質問・警察施設への同行の要求・所持物品の提出要求・一時預かりないし廃棄の催促・少年の保護者への連絡ができる、また、警察署長は、警察施設における12時間を超えない一時保護ができるとしています。
 この条例は、子どもの生活全体への警察の監視を認めるものです。

 (2)少年法「改正」法案―すべての子どもが警察の調査の対象に

 2006年2月に少年法「改正」法案が国会に上程され、継続審議となっています。この法案も、子どもへの監視を強めるものです。

@ 14歳未満の子どもへの警察の調査
 14歳未満の子どもが起こした事件は犯罪にはなりません。法案は、この子どもの事件についても、警察の調査の権限を認めようとしています。重大な事件を起こした子どもは複雑な家庭環境などを背景としている場合が多いのです。そのような子どもに警察が自白を迫っても、真の解決にはならないだけではなく、嘘の自白につながる危険性もあります。

A すべての子どもが警察の調査の対象に
 「ぐ犯少年」とは「将来犯罪を犯すおそれのある少年」ですが、法案は「ぐ犯である疑いのある少年」を警察官が調査できるとしています。おそれの疑い」ですから、奈良県補導条例の「不良行為」と同じように、広すぎて歯止めがありませんので、すべての子どもが警察の監視下におかれることになってしまいます。

B 小学生も少年院に入れる
 現在は、少年院に収容するのは14歳以上の少年としています。ところが、法案は14歳未満の子どもも少年院に収容できることにしています。14歳未満の子どもが事件を起こすのは、親などの大人との信頼関係が築かれず、愛情を受けなかったことなどが原因であることが多いのですから、暖かい家族的な環境の中での「育て直し」が大切です。

学校と警察の連携・協力体制による子ども管理・監視システムの確立

 教基法改正案13条は、「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、・ ・ ・ 相互の連携及び協力に努めるものとする」とし、「その他の関係者」の中には警察が含まれます(6月8日の馳副大臣の国会での答弁)。教育基本法そのものが、学校と警察の連携協力を、わが国の教育体制の基本原則の一つとして承認しようとしているのです。
 しかし、本来、「社会の秩序維持」と「犯罪の取り締まり」を担う警察が学校と連携協力して教育を担うことなどできるのでしょうか。何のために両者の連携協力が必要なのか? その解答が、今まさに企図されている少年法の改正の目的なのです。
 前述したように、「犯罪を犯すおそれの疑いのある」子どもですから、警察のさじ加減一つで、すべての子どもが、秩序維持や社会安全のための統制手段の中に組み込まれ、”将来の危険人物”あるいは”犯罪予備軍”として情報を収集され、「要監視のレッテル」を貼られるおそれがあります。
 しかも、警察は調査にあたって、保護者、学校、職場及び関係機関に対しても、呼び出しや質問をし、必要な事項の報告を求めることができるのです。教育基本法(案)そのものが、警察と連携協力して教育を行うことを基本原則としているのですから、学校は責務として子どもの情報を警察に流し、また保護者はわが子の成長発達にとって不利益なことや家庭内のプライベートな情報も警察に提供することを事実上余儀なくされているのです。

子どもの権利条約の立場からの批判を!

 子ども達への管理主義の強まりは、子どもの権利条約に違反しています。「子どもの権利・人権を守れ」の声を上げていきましょう。